生成AI(文章や表の下書きを作るAI)や施工管理アプリの提案で、「補助金で安く入れられます」と言われた建設会社の社長に向けて書きました。締切が近いと聞くと急ぎたくなりますが、申請の前に決めておくことが3つあります。
結論から書きます。生成AIを使う作業を1つに絞り、施工の判断を持つ人を決め、数年の計画と、交付決定(補助金を出すと事務局が決めること)の前に発注しない段取りを引き受けられるかを確かめれば足ります。
| 決めること | 中身 | 決めないまま申請すると |
|---|---|---|
| 1. 使う作業 | 工程表・写真整理・工事台帳など、生成AIを入れる作業を1つに絞る | 審査で見られる「課題とツールのつながり」を説明できない |
| 2. 施工の判断を持つ人 | AIの下書きを確かめる人を、主任技術者など名前で決める | 工程管理や品質管理の職務が、誰のものか曖昧になる |
| 3. 数年の約束 | 3〜5年の計画・賃上げの目標と、交付決定前に発注しない段取り | 補助金によっては目標未達で返還を求められる。先に契約した経費は対象外になる |
この記事は、AI導入の判断を一緒に行う「AI関所」を運営する合同会社てんが書きました。私は建設業や補助金申請の専門家ではありません。公募要領と条文の範囲で整理し、私の読みはそう書き分けています。見積や日報のどこからAIを始めるかは、工務店・建設業向けの別の記事で扱っています。
2026年10月時点で、建設業が候補にできる3つの補助金
生成AIや現場のアプリに使える国の補助金は、2026年10月7日時点で主に3つあり、うち2つは名前が変わっています。 これまでIT導入補助金と呼ばれてきた制度は、2026年は「デジタル化・AI導入補助金2026」として公募されています。ものづくり補助金の名前は、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の中に残っています。デジタル化・AI導入補助金の定義では、建設業は資本金3億円以下か従業員300人以下の会社が対象です。
| 補助金(公募要領の名前) | 生成AI・現場のアプリとの関係 | 2026年10月7日時点の受付 |
|---|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金2026(通常枠) | 事務局に登録されたITツール(AIを含むソフトウェアなど)の導入費。建設・土木業の作業として工程管理・写真管理・工事台帳などが挙がっている | 6次締切が10月30日17時。交付決定は12月10日の予定 |
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(第1回) | 新製品・新サービスの開発や、新しい事業への進出が対象。今の仕事の効率化だけでは対象にならない | 申請受付は9月30日から。締切は10月30日18時 |
| 中小企業省力化投資補助金 | 人手不足の解消に効く設備やシステム。一般型はAI・ロボットなどを使い、自社の作業に合わせて設計した設備 | 一般型の第8回は10月16日17時締切。カタログ注文型は令和9年3月末頃まで随時受付 |
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の公募要領は、既存の製品・サービスの生産などのやり方を改善する事業を、革新的新製品・サービス枠の対象外としています。日報や工程表、工事写真の整理をAIで楽にしたいだけなら、候補はデジタル化・AI導入補助金になります。これは公募要領の書きぶりからの私の読みです。締切や枠は回ごとに変わるため、申請の前に各事務局のページで最新の公募要領を確かめてください。
1つ目:生成AIを使う作業を1つに絞る
最初に決めるのは、生成AIを入れる現場の作業です。工程表、写真整理、工事台帳のどれか1つに絞ります。
デジタル化・AI導入補助金の公募要領は、建設・土木業に固有の作業を一覧にしています。工程管理(工程表)、品質管理、写真管理、工事台帳、積算・拾い出し・見積、施工管理、安全衛生管理、BIM/CIM対応などです。
審査では、自社の課題と、改善すべき作業と、ITツールで見込める効果がつながっているかが見られます。「生成AIで現場を効率化」という書き方では、この問いに答えられません。「工事写真の仕分けと台帳づくりにかかる時間を減らす」のように、作業と困りごとを1文で言える形にします。
補助の対象は、IT導入支援事業者が提供し、事務局に登録されたITツールの導入費用です。社長が自分で契約した汎用の生成AIサービスが、そのまま対象になるとは限りません。外向けに無償で提供されているものは、対象外と明記されています。登録されているかは、事務局の「ITツール検索」で確かめられます。提案された施工管理アプリが、建設・土木業のどの作業で登録されているかも、提案した会社に聞いておきます。
2つ目:施工の判断を持つ人を、名前で決める
AIが工程表や品質記録の下書きを作っても、施工の技術上の管理は主任技術者(工事現場で施工の技術上の管理を担う人)の職務のままです。
建設業法26条の4は、主任技術者と監理技術者に、職務を誠実に行うよう求めています。職務は、施工計画の作成、工程管理、品質管理その他の技術上の管理と、施工に従事する者の技術上の指導監督です。補助金の対象になる作業と、この条文が人に求める職務は、かなりの部分が重なります。
同じ法律の26条3項1号ハは、工事現場の状況の確認などの職務を、主任技術者が情報通信技術を使って行う場合を定めています。道具は使ってよく、職務を行うのは主任技術者だ、というのが条文からの私の読みです。
工事の完成を約束したのも会社です。民法632条は、請負を、一方が仕事の完成を約束し、相手方がその結果に報酬を払う契約と定めています。AIの提供会社は、お客様との請負契約の当事者ではありません。
次の表は、工程表から安全衛生管理まで、補助金の対象になる作業ごとに、AIに任せる範囲と確かめる人を私が整理した目安です。法律の基準ではなく、社内のルールを作る出発点として使ってください。
| 補助金の対象になる作業(建設・土木業) | AIに任せる範囲 | 確かめる人と見ること |
|---|---|---|
| 工程管理(工程表) | 前の現場の工程をもとにした案づくり | 主任技術者が、職人の手配と天候の余裕を見る |
| 品質管理・出来形管理 | 記録の整理と、抜けている項目の指摘 | 主任技術者が、基準と実測を照らし合わせる |
| 写真管理・工事写真台帳 | 写真の仕分けと、説明文の下書き | 現場の担当者が、撮影した箇所と日付を確かめる |
| 工事台帳・原価管理 | 集計と、実行予算との差の一覧 | 社長が、差の理由を現場に聞いて判断する |
| 安全衛生管理(作業手順・ヒヤリハット) | 手順書と記録の下書き | 主任技術者が、その現場の状況に合うかを見る |
工事ごとに、確かめる人の名前を1人決めておきます。主任技術者を置く義務は、26条1項で許可を受けた建設業者にかかります。許可を持たない会社も、確かめる人を決めておく考え方は同じです。
3つ目:数年の約束と、発注の順番を引き受けられるか
補助金を使うなら、3〜5年の計画を約束し、交付決定の前に発注しない順番を守ります。
| 補助金 | 計画と目標(公募要領の要件) | 先に発注した経費 |
|---|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金2026(通常枠) | 労働生産性を年平均3%以上伸ばす計画。申請額や過去の受給によっては賃上げの計画も要件 | 交付決定前に購入したITツールは対象外 |
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 | 3〜5年で付加価値額を年平均4.0%以上、1人当たり給与支給総額を年平均3.5%以上伸ばす。給与の目標に届かないと返還を求められる | 交付決定日より前に契約(発注を含む)した経費は対象外 |
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) | 3〜5年で労働生産性を年平均4.0%以上、1人当たり給与支給総額を年平均3.5%以上伸ばす。給与の目標に届かないと達成率に応じて返還を求められる | 交付決定前に発生した経費は対象外。事前着手は認められない |
給与の目標には、自社で雇っている職人や現場監督の給与も入ります。受注の波が大きい年でも守れる数字かを、決算書を見ながら決めます。
繁忙期の前に施工管理アプリを先に契約して現場で試したい場合も、補助金を使うならその順番は取れません。試すなら無料の範囲で試し、本契約は交付決定を待ちます。
「補助金で安くなる」と言われたときに確かめること
計画づくりを提案した会社に任せきりにせず、ITベンダー以外の第三者にも一度見せます。 公募要領そのものが、そのための注意と仕組みを用意しています。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の公募要領は、事業計画は必ず申請者自身で作るよう求めています。申請者以外が作ったと分かれば、不採択や取消になります。同じ要領は、サービスとかけ離れた高額な成功報酬の請求や、経費の水増しの提案をする業者に注意を促しています。
デジタル化・AI導入補助金の通常枠には、「デジタル化セカンドオピニオン」という加点があります。ITベンダー以外の第三者と面談した申請者を加点する仕組みで、第3回公募から始まりました。面談の相手は、事務局に登録された中小企業診断士かITコーディネータです。経営者本人が出席し、IT導入支援事業者やITベンダーは同席できません。
面談では、現状の課題と導入するツールがつながっているかなどが評価されます。工程表のアプリなら、どの現場の誰の何の作業を減らすのかまで、社長の言葉で言える状態にしておきます。なお、AI関所の面談はこの加点の対象ではありません。加点を受けたいときは、事務局の手続きで確認者を選んでください。
提案を受けたら、その場で聞く3つ
- この費用のうち、補助の対象になる経費と、ならない経費はどれか
- 交付決定の前に、契約や支払いを求められていないか
- 申請の手伝いの報酬は、いくらで、何に対して払うのか
よくある質問
工事写真の整理に使う汎用の生成AIサービスの月額料金は、補助金の対象になりますか?
デジタル化・AI導入補助金の対象は、IT導入支援事業者が提供し、事務局に登録されたITツールです。自分で契約した汎用サービスがそのまま対象になるとは限りません。写真管理の機能を持つ施工管理アプリとして登録されているかを、事務局の「ITツール検索」で確かめます。
主任技術者がAIの案をもとに施工計画を作っても、問題はありませんか?
建設業法26条の4は、施工計画の作成を主任技術者の職務としています。AIの案を使うこと自体を禁じる定めは、私が読んだ範囲の条文にはありません。主任技術者が中身を確かめ、自分の計画として説明できるかが分かれ目だと私は読んでいます。
補助金を使わずに生成AIを始めてもよいですか?
始められます。日報の要約など社内で完結する作業から試す順番は、工務店・建設業向けの記事にまとめています。施工管理アプリへの補助金は、試した結果を見てから検討できます。
まとめ
建設業で生成AIに補助金を使う前に、使う作業を1つに絞り、施工の判断を持つ人を名前で決め、3〜5年の計画と発注の順番を引き受けられるかを確かめます。工程管理や品質管理の職務は、AIを入れても主任技術者に残ります。提案を受けたら、対象になる経費、交付決定前の契約、申請の手伝いの報酬の3つをその場で聞きます。
補助金つきの提案を、申請の前に第三者と見たいとき
補助金を使う前提の提案を前に迷ったら、AI関所をご利用ください。月1,000円(税別)で、20分の個別面談がつきます。提案書や見積を面談で一緒に見て、気になる点と先方に確認すべきことを整理します。申請の代行は行っていません。最終的に決めるのは御社です。
AI関所のサービス内容を見るこの記事を書いた人
疋田 悠人(ひきだ ゆうと)です。合同会社てんの代表で、AI導入の判断を中小企業の経営者と一緒に行う「AI関所」を運営しています。建設業や補助金申請の専門家ではありません。この記事は法律や申請の助言ではなく、公開されている条文と公募要領をもとにした整理です。
出典・参考
- デジタル化・AI導入補助金2026 公募要領(通常枠) (中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局・2026年8月28日改訂版・2026年10月7日確認)
- デジタル化セカンドオピニオンマニュアル(申請者向け・通常枠) (中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局・2026年9月29日改訂・2026年10月7日確認)
- 事業スケジュール (中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局・2026年10月7日確認)
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回)1.2版 (独立行政法人中小企業基盤整備機構・令和8年8月・2026年10月7日確認)
- 中小企業省力化投資補助事業(一般型)公募要領(第8回公募) (独立行政法人中小企業基盤整備機構・2026年9月18日改訂・2026年10月7日確認)
- 中小企業省力化投資補助事業(カタログ注文型)公募要領 (独立行政法人中小企業基盤整備機構・令和8年3月19日改訂・2026年10月7日確認)
- 中小企業省力化投資補助金 トップページ (中小企業省力化投資補助金事務局・一般型第8回の受付期間・2026年10月7日確認)
- 建設業法 2条・26条・26条の4 (e-Gov法令検索・2026年10月7日確認)
- 民法 632条 (e-Gov法令検索・2026年10月7日確認)


