ポータルサイトの反響に夜や休日すぐ返せず、AIに返信や物件説明を任せたいと考える社長は多いはずです。一方で、AIがお客様に言ってはいけないことを言わないか、不安も残ります。
結論から書きます。AIに任せるのは、反響の受付・内見の日程調整・物件資料に沿った返信の下書きまでです。将来の環境や値上がりの見通し、重要事項の説明、断られた後の追客は、AIにさせません。
この記事は、AI導入の判断を一緒に行う「AI関所」を運営する合同会社てんが書きました。私は宅地建物取引士ではありません。宅地建物取引業法(宅建業法)と同法施行規則の条文の範囲で整理し、条文からの私の読みは、そう書き分けています。AIで書いた物件紹介文を広告に載せてよいかは、別の記事で扱っています。
反響対応と物件説明の線引き表
反響対応と物件説明は、「任せる・下書きまで・任せない」の3つに分けます。 次の表は、宅建業法と施行規則の条文をもとに私が整理した目安です。法律の基準ではなく、社内のルールを作る出発点として使ってください。
| 作業 | 線引き | 理由・確認 |
|---|---|---|
| 反響へのお礼と受付の自動返信 | 任せる | 会社名と担当者名を入れる |
| 内見の日程調整 | 任せる | 確定の前に担当者が予定を見る |
| 間取り・賃料・設備など、物件資料にある事実の回答 | 下書きまで | 送る前に最新の物件資料と照らす |
| 物件資料に書いていない質問への回答 | 任せない | 「確認して担当者から連絡します」と返す |
| 周辺の将来の環境・交通、値上がりの見通し | 任せない | 断定的判断の提供にあたるおそれ(47条の2・施行規則16条の11) |
| 重要事項の説明、重要事項に関わる質問 | 任せない | 宅建士が書面を交付して説明する(35条) |
| 追客メールの文面 | 下書きまで | 断られた相手には送らない(施行規則16条の11) |
| 申込の可否、価格・条件の交渉 | 任せない | 社長か担当者が決める |
表の「任せない」は、条文が禁じる行為と、宅建士にさせると定めた行為に重なる部分です。
AIの返事にも、宅建業法の禁止事項がかかる
AIチャットボットや自動返信の文も、お客様には会社の返事として届きます。 宅建業法と施行規則は、契約の勧誘などの場面で次の行為を禁じています。
| 条文 | 禁じている行為(要旨) |
|---|---|
| 47条1号 | 重要事項や、物件の環境・交通・対価など相手の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる |
| 47条の2 1項 | 利益を生ずることが確実であると誤解させる断定的判断を提供する |
| 施行規則16条の11 1号イ | 物件の将来の環境や交通その他の利便について、誤解させる断定的判断を提供する |
| 同 1号ハ | 勧誘の前に、業者の商号、勧誘する人の氏名、勧誘の目的を告げずに勧誘する |
| 同 1号ニ | 契約しない意思(勧誘を続けてほしくない意思を含む)を示した相手に、勧誘を続ける |
| 同 1号ホ | 迷惑を覚えさせる時間に電話し、または訪問する |
断定的判断(「必ず値上がりする」のように、不確かなことを確かだと思わせる言い方)を禁じる47条の2の主語は、「宅地建物取引業者又はその代理人、使用人その他の従業者」です。AIツールの名前は、この中にありません。私の読みでは、AIが書いた返事でも、会社が送った以上は会社の勧誘として扱われると考えるのが安全です。
たとえば「この辺りは新駅ができて便利になります」「数年後には値上がりします」と言い切る返事は、AIに書かせません。将来のことを聞かれたら、自治体が公表している計画など確かめられる資料の場所を伝え、判断はお客様に任せます。
47条1号は「故意に」と定めています。AIの誤りが、すぐに故意にあたるとは限りません。それでも、ペット可かどうかや賃料を間違えて伝えれば、内見や申込の判断を誤らせます。物件の事実は、送る前に最新の物件資料と照らします。
重要事項の質問は、宅建士に回す
重要事項の説明は宅地建物取引士(宅建士)が行う決まりなので、AIには答えさせません。 35条は、契約が成立するまでの間に、宅建士に、重要事項を書いた書面を交付して説明させるよう定めています。説明のときは宅建士証を示し(35条4項)、書面には宅建士が記名します(35条5項)。
重要事項説明(契約前に宅建士が書面で行う、物件と取引条件の説明)の項目には、登記された権利、法令上の制限、私道の負担、契約の解除、損害賠償額の予定などが入ります(35条1項各号)。反響の段階でも、こうした項目に関わる質問は来得ます。AIが一般論で答えると、物件ごとの事情と食い違うおそれがあります。
| 反響で来得る質問 | 関わる重要事項(35条1項) | AIに返させる文 |
|---|---|---|
| 再建築できますか | 法令に基づく制限(2号) | 宅建士から物件ごとにご説明します |
| 前の道路の負担はありますか | 私道に関する負担(3号) | 宅建士から物件ごとにご説明します |
| 解約したら違約金はいくらですか | 契約の解除(8号)、損害賠償額の予定・違約金(9号) | 契約条件は宅建士からご説明します |
追客の自動化は、名乗りと止める条件を先に決める
追客メールをAIで書くときは、会社名と担当者名を名乗り、断られたら止める手順を先に決めます。 施行規則16条の11は、商号・氏名・目的を告げない勧誘(1号ハ)と、断った相手への勧誘の継続(1号ニ)を禁じています。
自動の追客は、設定を変えるまで送り続けます。「他で決めました」「もう連絡は不要です」と返ってきたら、その相手への配信を止める担当者を決めておきます。AIが電話をかけるサービスを使うなら、かける時間帯も決めます(1号ホ)。
反響の中身をAIに入れる前に
反響の中身をAIに入れる前に、名前を伏せるか、入力が学習に使われないサービスかを確かめます。 反響には、氏名・電話番号・勤務先・年収・家族構成などが入ることがあります。
個人情報保護委員会は、令和5年6月2日の注意喚起で、個人データの生成AIへの入力に注意を促しています。本人の同意なく入力し、応答を返す以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法に違反する可能性があるとしています。返信の下書きを作るだけなら、お客様を特定する情報は要りません。次のように置き換えてから頼みます。
| 反響の項目 | 下書きを頼むときの扱い |
|---|---|
| 氏名・電話番号・メールアドレス | 入れない。「A様」に置き換える |
| 勤務先・年収 | 入れない。予算の上限だけを書く |
| 家族構成 | 「2人入居」のように人数だけを書く |
| 希望の条件(駅・間取り・賃料) | そのまま入れてよい |
AIへの指示に入れる5行
チャットボットや返信の下書きを使う前に、AIへの指示(設定)に次の5行を入れます。 印刷して、設定を担当する社員や業者に渡せる形にしました。
| 指示に入れる文 | 対応する条文 |
|---|---|
| 物件資料に書いていないことは答えず、「確認して担当者から連絡します」と返す | 47条1号 |
| 周辺の将来の環境・交通や、価格が上がるかどうかは答えない | 47条の2 1項、施行規則16条の11 1号イ |
| 法令上の制限・私道・解約・違約金など重要事項に関わる質問は、宅建士からの説明に回す | 35条 |
| 最初の返信に、会社名と担当者名を入れる | 施行規則16条の11 1号ハ |
| 「不要」「他で決めた」と返ってきたら、追客の文を作らない | 施行規則16条の11 1号ニ |
AIが指示どおりに動くとは限りません。設定した後もしばらくは、送る前に担当者が全件を読みます。
よくある質問
宅建士でない社員が、AIの下書きで反響に返信してよいですか?
35条が宅建士にさせると定めているのは、重要事項の説明と書面への記名です。反響への返信そのものは、宅建士に限られていないと私は読んでいます。重要事項に関わる質問が来たら、宅建士に回します。
AIチャットボットが、成約済みの物件を「空いています」と答えたらどうなりますか?
成約済みの物件をインターネットに載せ続けることは、不動産の表示に関する公正競争規約21条と、不動産公正取引協議会連合会のおとり広告ガイドラインで、おとり広告の例に挙がっています。チャットボットの答えが広告にあたるかは、私には判断できません。同じ物件情報から答えるなら、成約と同時に消える仕組みかを確かめます。
チャットボットの業者から「重要事項の説明までAIで」と提案されたら?
35条は、重要事項の説明を宅建士にさせると定めています。AIが書面の項目の抜けを点検する使い方はあり得ますが、説明と記名は宅建士が行います。提案の範囲がどこまでかを、契約前に業者へ確かめます。
まとめ
AIに任せるのは、反響の受付・内見の日程調整・物件資料に沿った返信の下書きまでです。将来の環境や値上がりの見通しと重要事項の説明はAIにさせず、追客は名乗りと止める条件を決めてから使います。まずは線引き表と指示の5行を社内のルールにして、反響の受付から試します。
AIツールを決める前に、第三者と一緒に見たいとき
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AI関所のサービス内容を見るこの記事を書いた人
疋田 悠人(ひきだ ゆうと)です。合同会社てんの代表で、AI導入の判断を中小企業の経営者と一緒に行う「AI関所」を運営しています。宅地建物取引士ではありません。この記事は法律の助言ではなく、公開されている条文と官公庁・業界団体の文書をもとにした整理です。
出典・参考
- 宅地建物取引業法 35条・47条・47条の2 (e-Gov法令検索・2026年10月7日確認)
- 宅地建物取引業法施行規則 16条の11 (e-Gov法令検索・2026年10月7日確認)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等 (個人情報保護委員会・令和5年6月2日・2026年10月7日確認)
- 不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則 21条 (不動産公正取引協議会連合会・2026年10月7日確認)
- 『おとり広告』の規制概要及びインターネット広告の留意事項 (不動産公正取引協議会連合会・2019年11月1日・2026年10月7日確認)


