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紺色の背景に、関所の門と、手順書に青い錠を重ねた図を白と青の線で描いた図
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製造業の生成AI、手順書と技能の言語化にどこまで使えるか 製造業の生成AI、手順書と技能の言語化にどこまで使えるか

AI関所 2026.10.08 約7分で読めます 合同会社てん

ベテランの退職が近づき、その技能を手順書に残したいと考える社長は多いはずです。生成AI(文章を作るAI)で手順書が作れると聞いても、図面や加工条件を入れてよいのか分からず、手が止まっていないでしょうか。

結論から書きます。生成AIは、ベテランの話を手順書の下書きにする作業に使えます。ただし、図面・加工条件・品質記録の原本は社外のサービスに入れず、数値や顧客名を伏せた形で使います。

この記事は、AI導入の判断を一緒に行う「AI関所」を運営する合同会社てんが書きました。私は製造業や知的財産の専門家ではありません。条文と指針の範囲で整理し、私の読みはそう書き分けています。AIを入れる困りごとの絞り方は、製造業のAI導入の記事で扱っています。

生成AIに入れる情報の仕分け表

情報を「入れてよい」「伏せて入れる」「社外のサービスに入れない」の3つに分けます。 次の表は、営業秘密(法律で守られる会社の秘密情報)の考え方をもとに私が整理した目安です。

情報線引き理由・入れる前の確認
安全・5Sなど、社外にも出している一般的な手順入れてよい公開している内容と同じかを確かめる
ベテランの話の録音・文字起こし伏せて入れる寸法・温度・配合比などの数値と、顧客名・品番を記号に置き換える
不良の記録の要約伏せて入れる顧客名・品番・ロット番号を消し、件数と現象だけにする
自社の図面、加工条件(回転数・送り・温度・配合比)社外のサービスに入れない営業秘密の中心になりやすい。手順書には社内で書き戻す
顧客から預かった図面・仕様書社外のサービスに入れない秘密保持契約の、目的外の使用と第三者への開示の条項を確かめる
検査成績書・品質記録の原本社外のサービスに入れない原本は社内で保管し、AIの要約を原本の代わりにしない

法律の基準ではなく、社内ルールの出発点として使ってください。

技能を書き出すことは、営業秘密を守る準備にもなる

手順書づくりは、ベテランの技能を会社の秘密として管理する前提をつくる作業でもあります。 不正競争防止法2条6項は、営業秘密を次の3つを満たす情報と定めています。

要件条文の言葉
秘密管理性秘密として管理されている
有用性生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報
非公知性公然と知られていない

経済産業省の営業秘密管理指針(2025年3月31日改訂)は、技能や設計など従業員が体得した無形のノウハウについて、原則として内容を紙などに可視化する必要があるとしています。方法の例は、営業秘密のカテゴリーをリストにすること、具体的に文書に書くことです。

指針はその理由として、可視化しないまま使用を禁じると、従業員はどの情報を持ち出せないのか分からなくなる点を挙げています。ベテランの頭の中にあるうちは、会社の秘密として管理しにくいということです。手順書にしてマル秘の表示や保管場所を決めれば、管理の形が整います。これは指針からの私の読みです。

社外の生成AIに入れると、秘密の管理が揺らぐことがある

図面や加工条件を社外の生成AIサービスに入れる前に、その情報を会社の外へ渡すことにならないかを確かめます。 2025年改訂の指針には、生成AIについての注記があります。

場面指針の考え方
社内で秘密として管理している情報を生成AIに使い、社内でその情報が出力された出力された一事をもって、秘密管理性が否定されることはないと考えられる
その情報が、生成AI提供事業者など会社の外の第三者に提供される秘密管理性が否定される場合もあり得る(脚注)

社外のサービスに入れることは、秘密として管理されていると言えるかに関わります。どんな条件で否定されるかは、指針も「場合もあり得る」としか書いていません。図面と加工条件は社外のサービスに入れない側に置くのが安全だと、私は考えます。

サービスの契約と設定も確かめます。OpenAIは、法人向けのChatGPT BusinessやAPIで、初期設定では入力したデータをモデルの学習に使わないと案内しています(2026年1月8日更新のページ)。学習に使われないことと、会社の外へ渡していないことは別の話です。私の読みでは、学習の設定は確認の1項目で、入れてよい理由にはなりません。

米国の国立標準技術研究所(NIST)が2024年7月に出した生成AIのリスクの整理でも、知的財産のリスクに営業秘密の露出が挙がっています。米国の任意の文書で、日本の法律の判断には使えません。

顧客から預かった図面は、自社の情報とは別に、預かったときの約束に従います。指針は、取引先に秘密情報を渡すときは、秘密保持契約を結んだうえで渡したかがポイントになるとしています。預かる側から見れば、その契約の条項が、生成AIに入れてよいかを決めると私は読んでいます。

手順書の下書きを作る4つの手順

ベテランに話してもらい、数値を伏せて生成AIで下書きにし、最後にベテランと社内で数値を書き戻します。 1つの作業で試し、うまくいったら次の作業に広げます。

手順すること確認すること
1ベテランに作業を1つ選んで話してもらい、録音する段取りから検査まで、1つの作業を通して話してもらう
2文字起こしの数値・顧客名・品番を記号に置き換える「温度T1」「顧客A」のような置き換え表を社内に残す
3生成AIに、手順書の形に整えるよう頼む手順の順番と、抜けた作業がないか
4ベテランが下書きを読み、社内で数値を書き戻す完成版にマル秘の表示をし、保管場所と見られる人を決める

手順4でベテランが読み直すのは、生成AIの下書きに誤りが混ざることがあるからです。IPAが2025年2〜3月に行った調査(DX動向2025)でも、生成AIの課題に「誤った回答を信じて業務に利用してしまう」を挙げた割合は、日本が米国・ドイツより突出していました。

よくある質問

社内だけで動く生成AIなら、図面を入れてもよいですか?

指針は、社内で秘密として管理している情報を生成AIに使い、社内で出力されても、その一事で秘密管理性は否定されないと考えています。ただし、本当に社外へ送られていないかは、サービスの仕組みと契約で確かめます。見られる人を決め、図面の原本と同じ扱いにします。

技能を手順書にすると、辞めた人に持ち出されませんか?

手順書にすると、何が会社の秘密かを示しやすくなります。営業秘密管理指針は、体得したノウハウを可視化しないまま使用を禁じると、従業員が何を持ち出せないか分からなくなるとしています。転職後の使用がすぐに民事・刑事の対象になるわけではない点も、指針に書かれています。

品質記録をAIで要約して、顧客への報告に使えますか?

下書きには使えます。顧客名や品番を伏せてから入れ、報告の前に原本と数字を突き合わせます。原本は社内で保管し、要約を原本の代わりにしません。顧客との契約で記録の扱いが決まっていれば、その定めに従います。

まとめ

生成AIは、ベテランの話を手順書の下書きにする作業に使えます。図面・加工条件・品質記録の原本は社外のサービスに入れず、数値と顧客名を伏せた形で入れます。手順書にしたら、マル秘の表示と保管場所を決め、会社の秘密として管理します。サービスは、学習の設定と契約の両方を確かめてから選びます。

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この記事を書いた人

疋田 悠人(ひきだ ゆうと)です。合同会社てんの代表で、AI導入の判断を中小企業の経営者と一緒に行う「AI関所」を運営しています。製造業や知的財産の専門家ではありません。この記事は法律の助言ではなく、公開されている条文と官公庁などの資料をもとにした整理です。

出典・参考

  1. 不正競争防止法 2条6項 (e-Gov法令検索・2026年10月7日確認)
  2. 営業秘密管理指針 (経済産業省・最終改訂 令和7年3月31日・2026年10月7日確認)
  3. OpenAI におけるエンタープライズプライバシー (OpenAI・2026年1月8日更新・2026年10月7日確認)
  4. DX動向2025 (情報処理推進機構(IPA)・2026年10月7日確認)
  5. Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative Artificial Intelligence Profile NIST AI 600-1 (NIST・2024年7月・2026年10月7日確認)
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